
前回、買ったといっていた双葉の文庫がこれです。
90年代に出ていたコミックスの文庫版で、短編集です。 すでに読んだ作品が3作も重なっていましたが、「影の街」がどうしても読みたくて即購入。 表題作を含む、すでに読んだ作品がどうしても中心になってしまうんで、それ以外のものがやや小粒な印象もありますが、なかなかよかったです。
冒頭のコメディータッチのショートショート2作品と、続く「鎮守の森」の冒頭2色ページまでがカラーです。 冒頭2作はフルカラー作品だから載せたのかな? といった感じ。 「鎮守の森」は、すでに1回読みましたが、田舎に帰省した男が鎮守の森に迷い込んで最終的に鬼に成り果てる話で、途中、急いでる感じも強いですが、追い詰められる感じが怖い1作。
表題作「ぼくとフリオと校庭で」は、サイモンとガーファンクルの曲からタイトルを頂戴した作品で、これもすでに読んでますが、今回もう一度読んでみて、よくよく、よく出来た構成だなと感じましたね。 コマの運びとかセリフなどが非常に吟味されていて無駄がない。 本人も気に入ってるはずですね。 勝手に70年代に描かれた作品だと思い込んでいましたが、作者が様々な思い出を時代に関係なく入れ込んで描いただけで、80年代の作品だったんですね。
「沼の子供」も1度読みましたが、何度読んでも非常に変わった作品だという印象は変わりません。 南米の山の山頂にある沼に、裸の男女が常に居る、という状況。 要は怪談の一種なのかもしれませんが、都市伝説のようで妖怪譚のようで、なんともいえません。 しかもリアリティーがある。 まるで、山で犬やサルに育てられた子供が発見されるドキュメントのような趣もあるし・・・・・・。
「流砂」は、砂漠と崖(流砂)に隔絶された、とある星のとある街からの脱出物語。 旧態依然とした死んだような街と大人たちからの脱出を試みる若者たち。 テーマは、実は脱出する側の若者の気持ちだけではなかったのだけど、その先も見てみたかった。 並みの作家なら、この先を描いても大したものは期待できないだろうと納得しますが、諸星氏は何度もその先を描いてきた作家ですからね。
「黒石島殺人事件」は、珍しく刑事が出てくるようなミステリーもの。 人の出入りが限られる孤島で殺人事件が起こる。 が、二転三転し、やがて誰が殺されたのかも曖昧になって・・・・・・。 島民の思い込みと流され方が怖い。
「城」は、前回読んだ『壁男』のなかの「会社の幽霊」にも近い印象の話で、ひとつの状況を拡大させていったらいったいどうなるのか、というワンアイデアストーリー。 超巨大企業のなかでたらい回しにされる男の一生。 まさに一生をかけた物語。 ファックスが時代を感じさせます。
「蒼い群れ」は、臓器売買の話。 臓器売買といっても、モグリの医者に借金の形で腎臓取られる、みたいな話ではなく、戦後の売血のように、病院が臓器を買い取ってくれることがおおっぴらに行われている世界の話。 ドヤで職にあぶれた貧困者が日々手配師の指示でドナーとなり、人体実験に参加して金と一時の平穏な生活を得る。 そこにはじめて足を踏み入れた若者が見た世界とは・・・・・・。 鬱屈としてまさに今を感じさせる作品で、救いもないので正直キツイ。 またSFホラー的な要素もあるので怖い。 悩み事のある人は余計落ち込む可能性ありなんで注意。
ちなみに、「城」と「蒼い群れ」の2作品は、ある状況の拡大で推し進めた話ですが、「城」の大企業も「蒼い~」の病院たちも、これだけ無駄なことをしていても経営が成り立っているということは、それ以外のところで上手く商売が回っているということで、いかにも80年代的楽観を感じます。 社会的にまだ余裕があったとでもいいましょうか。
この状況が怖いといえるのが80年代。 本当に怖いのは、その大企業も立ち行かなくなって、病院も臓器を買ってくれない世界。
ラストは、「影の街」。
これが読みたくて買ったわけですが、理由は『エヴァンゲリオン』の元ネタのひとつだと知ったから。 庵野はエヴァやる前からこの話を使いたいと言ってたらしいですね。 まぁ、有名な話らしいですけど。 さらに、最近、幻のエヴァ劇場版なるものの存在を明かして、それが、まんま『進撃の巨人』だったと言ってるんですが、「影の街」の中の巨人、人食ってます。
「ぼくとフリオ~」に似た印象の話で、知らない路地に入ると、そこは巨人が出てくる、この世界に似た別の世界。 「ぼくとフリオ~」同様、虚実がない交ぜになる話で、子供時代特有の心理描写が巧みです。 やや小品ですが、与えた影響は大きかった。
2006年に出た本なんで、探せば普通に買えると思いますんで、読んで興味を持たれたら読んでみるのもいいかもしれません。
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- 2014/11/14(金) 12:30:46|
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