
今、もっとも興味のある分野、ということで読んでみました。
といっても、漠然とある興味なんで、初の専門書、ということですが。
専門書といってもベストセラーだけあって、素人にも読みやすくなってはいます。
なってはいますが、意識の発生を説明、観測するための、統合情報理論を理解するには、
その前段階の脳の仕組みや生理的な理屈を理解している必要があるので、
いきなり本質を突くんじゃなく、かなり回りまわってたどり着きます。
それを、門外漢にも面白く感じさせるために、やや比喩過多な小説的アプローチにしているところが、
成功している部分でもあり、読みづらい部分でもあったり。
(二重三重に例えるような翻訳ものが苦手な人は、ちょっとまどろっこしいかも)
でも、現役の研究者が書いた無機的な報告書みたいな本は、本っ当に読みづらい、ある意味苦行なんで、
それに比べたら、硬い部分は全然ないしこれでいいんだと思いますが。
で、内容ですが、これが、あんまり解明されてないんですね。現状では。
意識の謎は果てしないです。
それをかすかにでもつかみ取れそうなところまで来ているんだから、それは凄いことなんですけど。
もうちょっと、具体的な何かがあるかと思ってたんですが、まだまだなんですね。
それこそ、重力波じゃないけど、意識波みたいなものがあるのでは、と期待しましたが、
意識をつかさどる物質については、かなり否定的でした。
そもそも、意識は、脳の中のある部位で起こる現象であって、
特別な何かが介在するものではない、と、今のところなってます。
意識とは何かとか、何故、意識があるのかとか、
そういう哲学的な本質にはまだ全然たどり着いていなくて、
タイトルにもあるように、いつ発生する、というか、
発生するときとしないときの差から、発生条件が突き止められそうだ、
という段階が、この本の現状。
結論から言うと、意識が発生する条件は、その部分(もちろん脳)が、
多様性のある情報を区別でき、かつ統合された一(いつ)なるものである、ということ。
この条件がそろえば、どんなシステムでもたぶん意識は発生する、らしい。
だけど、この条件は、それ自体矛盾に満ちたような至難の業、奇跡的なバランスを要求しているので、
コンピュータに意識が芽生えるなんて、チャンチャラおかしい絵空事だし、SiriなんてAIとも呼べないレベル。
間違っても機械に意識が芽生えるチャンスなんかないように感じる。
多様性のある情報を区別する、というのは、文字通り、大量の情報を見て、聞いて、感じることができるということで、
統合された一なるもの、というのは、その情報を、一つひとつ独自に処理するのではなく、システム全体で共有し、
ひとまとまりのものとして収まらなくてはならないということ。
この、統合が果たして機械にできるのか。
言い換えると、それ以上分割できない状態が人間の脳(視床‐皮質系)らしいので、
恐ろしく肥大した、超巨大ワンチップコンピュータ(表現が正しいかは知りません)のようなものなのか。
(実際には、チップの中に分割可能な並列処理部分があれば、意識は発生しないことになる)
ついこの間まで、意識の発生条件には、処理できる能力の大きさ、
ネットワークの巨大さが不可欠なんだと思っていたら、大きさや量ではないというから驚く。
実際に、大脳(視床‐皮質系)に比べ、小脳はニューロンの数も多く、処理も早い。
が、意識とは無関係の部位なので、取り去って捨ててしまっても意識に変化はない、らしい。
ちなみに、小脳は、完全な並列処理システムなので、それこそ無意識の反応を可能にしている部分で、
考えなくても動けるのはそのせい。ないと歩くにも意識的に足を出さないといけなくなるらしい。
そのほか、単純に初めて知る専門知識にも驚かされっぱなしだった。
長くなるので、簡潔に書くが、ロックトイン症候群の詳細な説明や、分離脳。(なんと脳梁を切ると意識が2つに!)
寝ると意識がなくなるシステムにカリウムが関係している、などなどなど。
最終的に、脳が脳のことを考え、意識して意識を考える深遠さ。
果ては、この奇跡のシステムを宇宙と対比させるまでに。
たぶん、興味が少しでもあれば読んで損しないと思う。
特に、この本から入れば判りやすいかと。
スポンサーサイト
テーマ:読んだ本。 - ジャンル:本・雑誌
- 2016/10/28(金) 12:46:42|
- 本、コミック感想
-
| トラックバック:0
-
| コメント:0