
以前、入っているケーブルテレビでAMラジオが聞けるようになったと知らされる。
しばらくした朝方、テレビもビデオも音楽も今はなぁ、というときに思い出し、
試しに聞いてみると、面白かった本、というお題を募ってのトーク中。
そこで、視聴者からのメールで紹介されていたのがこの本で、
とにかく、町田康版の『宇治拾遺物語』が腹抱えるほど面白く、
それは例えるならズルいんだそうで、
これは尋常じゃないなと思い、気軽に買ってみた。
もちろん、Amazonのレビューにもズルいとの感想あり、ますます期待。
で、届いたら、3センチぐらいある500ページ越えの本だったんでビックリ。
『聊斎志異』に続いてまたやっちゃったか(格闘中)、と一瞬ひるみましたが、
読みやすい現代語訳なんであっさりサクッと読了でした。
で、『宇治拾遺物語』ですが、
主に、滑稽で昔話の元ネタあたりを集めてあるんで、話自体が面白いのは間違いなしです。
さらに、町田康版は・・・・・・、やっぱりズルかったです。(笑)
なんちゅう好き勝手な翻訳をすんねん、という感じ。
ただ、個人的には凄くシックリくる文体というか、ノリ重視が好感が持てますね。
あえて丁寧な言葉でディスるとか、インギンな感じなところが、
自分でも『円谷劇場』の感想で似たような感じで書いてたんでピタッと来たというか。
だけどですね、あまりにも事前に面白いと聞かされ過ぎたんで、
本当に面白かったのに100%で感じられなかったのが非常に残念。
ただの文学全集だと思って読んだら、たぶん声出して笑ってると思います。
そのほか、全体としては、この巻は説話を集めていて、どれも、基本的には仏教説話の範疇に入るものだそう。
画像の右、『日本霊異記』から左に時代が下っていき、同種の話で比較も出来ます。
いくつかご紹介。
『今昔物語』から
「天狗に狂った染殿の后の話」
高僧が后に狂い鬼と化し、后を色情狂にして衆人環視で事に及ぶ。
という山田風太郎も真っ青なとんでもない話。
「何者とも知れぬ女盗賊の話」
偶然仲良くなった女と暮らし始めるが秘密が多く、実は、女は盗賊の頭であった。
という、『鬼平犯科帳』に出てきそうな話。
「大きな死人が浜にあがる話」
常陸の浜に15メートルの巨人の死体が打ち上がる話。
首、右手、左足がなく、やがて腐って周囲に人が住めなくなるというリアルさ。
と、ここまでは不思議な話が主で、『宇治拾遺』まではそんな話が多いんですが、
実は、この本を読んでいちばん思うところがあったのは、最後の『発心集』。
いわゆる、発心して世を捨て自ら往生しようとする人たちの話。
判りやすく書くと、心が乱れぬうちに自ら死んで、よりよく転生したい、
極楽、仏の世界に導かれたいと思って実践した人たちの話。
これがねぇ、悩んでるんですよ。いつの世も。いじらしいぐらいに。
しかも、修行を積んで偉くなっちゃうと慕われちゃうんで、この世に未練が増しちゃう。
心穏やかでいられなくなると困るんで、偉いことを隠す。
さらには、下卑たフリをする。何だったら疑われないように怠惰に振る舞う。
乞食ぐらいは当然で、もの凄い人になると悪徳政治家みたいな対極の人物を装う。
もう、訳判らない世界ですが、みんな必死です。
その中でも、ああ、今読むべきと思わせるものが2つ。
一つは、「書写山の客僧、断食して往生の事」
山でひとり断食の末往生しようと決意した僧のことを周囲に漏らしたため、
人が集まり見世物のようになってしまったという話。
その話に対して、著者の鴨長明は、
(面白半分に集まり、拝んだり邪魔をしたり疑ったりした野次馬どもに対し)
「自分の心の至らなさを棚にあげ、信じないばかりか、他人の信心をも乱そうというのは、
馬鹿もここに極まれり、としか思えない」と喝破。
もう一つは、「日吉神社に詣でる僧が死人を葬る事」
百日詣でをしている僧が、その期間汚れを嫌うにも拘らず葬式を手伝ってしまうという話。
誓いを破ってしまった身で恐る恐る神社に行くとトランス状態の巫女に見破られるが、
「信心を起こさせるための方便としての物忌みなのはわかるだろう、
ただ人に語るな、慈悲の為に禁忌を犯したことは、愚か者にはわかるまい。
みだりに倣えば、ようよう発したこれっぽっちの信心が乱れてしまう。
善悪は、人によって違うのだよ」と言葉をかけられる。
この2つの話は、今のSNSを取り巻く状況に照らし合わせて考えられる話ではないのかと。
なかなか深い。
ちなみに、長明、最後にとうとうと阿弥陀経について熱弁を繰り返し、
若干、新興宗教の勧誘テイストになってややゲンナリ。(いいけど)
紹介してないものも満遍なく面白いんで、興味のある方はぜひ。
関係ないですが、最近、また思い出してテレビからラジオを選択しようと思ったら、
そのページ自体がなくなってました。(おのれ、JCOM)
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テーマ:読んだ本の感想等 - ジャンル:小説・文学
- 2020/05/29(金) 11:16:20|
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