
とうとう、ついに最後まで読んだので、最後の1章の感想を。
ちなみに『聊斎志異』とは、中国の清時代に書かれた(集められた)怪談奇談集。
この『ザ・聊斎志異[聊斎志異全訳全一冊]』については、
前回以前の感想からどうぞ。
最後の6章目は、「神異の巻」。読んで字のごとく神様(仙人)と接触する話。
この仙人、意外と人と近いところに住んでいて、うっかりしてるといつの間にかお宅訪問。
では、ここからは、恒例のピックアップを数話。
面白さでいうと、この章がいちばんかもで、怖い感じはグッと控えめ。
まずは、「青娥(せいが)」
親子2代に渡る大河ドラマだが、なかなかの支離滅裂な行き当たりばったりみたいな話。
頭がよくて母親思いだが社会のルールを知らない甘えん坊が、
仙人から貰った何でも切れるスキがきっかけで嫁になる娘とひと悶着。
結婚もし、子も生まれ、出世もするが、嫁は早死にし、のち仙人として再会。
第2の結婚生活がスタートし、子も増えるが、子供たちは仙人の両親に振り回され、
あげく、何処かへ行ってしまい子だけが残る。
ものさしサイズの仙人のスキ(鋤)がガジェットとして面白い。
次は、「雲蘿公主(うんらこうしゅ)」
これもまた、親子2代に渡る長い話。
生まれつき喋ることが出来、犬の血を飲ませるまで止まらなかったという利口な子が、
母親の思い付きで仙人の娘と婚約をするが、普請時の約束を守らず災難が続く。
親友で、怪力の子供を引き連れた義賊との関わりから無実の罪で攻め立てられ、母親は心労で亡くなり、
仙人からの婚礼費用をうらやみ妬んだ末、罪に陥れた隣人は義賊の親友に一族を根絶やしにされる。
仙人との生活が始まると人間とは違う振る舞いや道具に驚き、
2人目の子供は狼の子で行いがすこぶる悪く、あっという間に分けられた遺産を失ってしまう。
両親の死後は、兄と、不思議な縁で結ばれた鬼嫁に改心させられ、やっと弟は大人しくなる。
この話もまた、ガジェットが面白く、仙人が革袋のようなもので地面を叩くと煙モクモクで瞬間移動。
義賊の手下の小僧が見た目と違って怪力なのもキャラとして面白い。
「賈奉雉(かほうち)」
科挙に受からない主人公が行きずりの男に試験の受かり方を教わるが、
不本意な受かり方を恥じ、そのまま男に付いて山に隠遁、仙人修行に入る。
が、残してきた妻との仲は裂きがたく、結果、お眼鏡敵わず叩き出されてしまう。
すると、自分の村では100年の時が過ぎており、一族は、卑しくみすぼらしい貧乏生活に。
しかし、妻は、100年そのままの姿で寝たきりで、目覚めると夫婦生活を再開。
が、卑しく粗野な孫たちはロクな面倒も見ず、主人公は、改めて受験をし、どんどん出世する。
みるみる偉くなるが、あるとき、ヤクザな孫たちのせいで罪を被り軍役に送られてしまう。
夫婦で護送される途中、海岸に差し掛かると突然、
音曲を雷のような音でかき鳴らしながら巨大な船が現れ、主人公に乗れと催促。
顔を見ると小躍りして飛び乗り、妻も一緒にそのまま何処かへ去ってしまうのだった。
船から呼んだ人物は、冒頭の行きずり男であった。
ラストの音楽を爆音で鳴らしながら来る船の感じが、あたかも諸星大二郎のマンガに出てきそうなイメージ。
理屈じゃない感じが面白いし、怖い。
「瞳人語(どうじんご)」
優秀だが気の多い男が高貴な娘の車に不用意に近づき、御付きに土を掛けられ、追い払われる。
すると、目がおかしくなり、やがて見えなくなってしまい、どう治療しても治らない。
お経が効くと読み耽っていると、心が落ち着き気にならなくなるが、
目の中から声がして、「つまらない」と鼻から豆より小さい男が出て来て遊びに行く。
その小さい男は両目に1人ずつおり、会話をするが、
あるとき、行き来が面倒だと直接横に穴を開け移動してしまう。
すると、瞳が片方に2つになってしまうが目は以前より良く見えるようになった。
まったく、奇想以外の何物でもない。はっきり言って意味が判らないが。
「陸判(りくはん)」
豪放磊落な男が友人たちとの酒の席で、恐ろしい姿の神様の木像をここまで持ってこれるかと賭け、
あっさり持ってくると、神様に詫び、お酒を飲ませると約束をしてから戻しに行った。
すると翌日、さっそく神様が現れ、殺されるのかと思いきや宴会を所望。
それ以来、馴染みとなり、深い付き合いになったある晩、男は酔い潰れていると腹に違和感を覚える。
見ると、なんと神様が自分の臓物を取り出し選別している。(!)
神様は、頭の出来の悪いのを心配し、あの世から出来のいい心を持って来て交換してくれたのだった。
その後、試験に受かるようになり出世すると、今度は自分からお願いをする。
それは、妻の顔が悪いので奇麗な顔と交換できないかというもので、
神様は、それもあっさり受けると、数日あの世で美人の首を探し回り、
生首にして持ってくると、寝ている奥さんの首を落とし簡単に挿げ替えてしまう。
一方、ある所の美人の娘が殺された家で死体から首がなくなる事件が発生。
訴え出ると、噂で、顔が突然変わった妻がいる家があることが判明し、
行くと、はたして、死んだ娘の頭を持った女だったので、男は訴えられてしまう。
男は、再度神様にお願いし助けてもらうと、死んだ娘が娘の母親の夢枕に立ち事の次第を説明。
男は無罪となり、真犯人も捕まり、埋めていた不細工な妻の首と死んだ娘の身体を繋げて葬ることに。
その後、男は死んでも神様との仲は変わらず、あの世でも世話してもらって出世し、
子供とも幽霊となって一緒に過ごし、孫の代まで一族は繫栄する。
心霊手術の様が凄すぎる。そもそも、神様がこんなお願いを聞いていいのかと。(笑)
しかし、首ごと変えてしまったら別人になりそうだけど、
この時代だと、男がそうだったように、心は身体の方にある部位だと思ってたんでしょう。
「雷曹(らいそう)」
幼馴染の学友の利口な方が早死にし、もう一人の方が残された妻子の面倒を見る。
が、もともと裕福ではないので、勉強はあきらめ商人になる。
あるとき、出先で流浪する大食いマッチョマンに施すと、水害から守ってくれ親友に。
家に連れ帰り、一緒に生活するまでの仲になるが、ある日帰るといいだす。
雷も鳴っているしと止めつつ、雷雲の上はどうなってるのかと思っていると雲の上。
実はその男、失態から罰を受け、3年の地上生活の刑に処せられた雷様であった。
神様たちに混じって雨降りの実演、天上からは小星を失敬、日照りの故郷に多めに降らすと帰郷。
夜光って重宝する星を嫁が飲み込んでしまうと、早死にの幼馴染が夢枕に立ち、子になって生まれるよ。
で、利口な子が生まれ、大団円。
薄汚いマッチョが罰を受けて地上に降りた神というのがマンガのよう。
星の扱いも面白い。
「牛㾮(ぎゅうこう)」
ある牛飼いの男が暑い日に外で寝ていると、やはり暑がっている旅人が傍らに座っているのに気付く。
もてなしてやると意気投合し、泊ることになるが、よく見ると旅人の頭が透けている。
寝てしまってから気になって後頭部をのぞくと、耳の裏に穴が開いており、
その中に薄膜が仕切りのように下がっていて、どうやら中はカラッポの様子。
思わず中をのぞくと、中から牛のような小さな動物が躍り出て窓を破って外へ。
実は、旅人は家畜の疫病に関する神様であり、今逃がしたのは牛の疫病で、百里以内は全滅なのだという。
牛飼いが懇願して助け方を聞くと、ある薬に特効があるが勝手な心は持つなと忠告。
また、神様が壁のくぼみに盛った土も同様の効果があるという。
薬を他人に教えなかった牛飼いは薬の効き目がなくうろたえるが、土のことを思い出し事なきを得る。
のち、改心。
同じ様な頭に穴の開いている人物が出てくるコントが『めちゃイケ』にもあったが、
それも、これも、何か、不穏で恐ろしい感じが迫ってくる。
「劉海石(りゅうかいせき)」
疎開中に土地の友達と兄弟の契りを交わした男が父の死と共に故郷へ帰る。
残された友人は、妾を入れたりして平穏に暮らすが、やがて不幸が連続して起こるようになる。
立て続けに死人が出、途方に暮れていると、方位家相の達人となって兄弟分が訪ねてくる。
即座に異変に気付き、子の嫁の襟首から長い白髪を抜くと、危うく死ぬところだったと安堵。
他にも白い毛が刺さっている家人が見つかりその都度治療。
そして、全員を調査すると、はたして、妾がタヌキであった。
タヌキにも生えている白い毛を抜くと弱って縮み。
尻尾の毛を抜き忘れ逃げられても、今は動物にしか化けられないとブタが1匹多いのに気付き捕縛。
どうやら男は、偉い仙人の弟子になっていたらしい。
死ぬ人物に白い毛が刺さっている、というのが変わっている。
しゃべる動物が悪さする感じは高橋留美子のマンガの感じ。
いや~~、長かった。
飛び飛びにちょっとずつ読んでいたとはいえ、今見たら4年も掛かってた。
それでも、読み続けられたのは、ひとえに、この『聊斎志異』が面白かったから。
そう、本当に面白いんですよ。掛け値なしに面白い。
まだ、読み慣れてない頃に苦労して読んだ冒頭に、これに匹敵するものは、
『アラビアンライト』ぐらいしかない、という学者の言葉がまったくその通りだった。
それに、ただ面白いだけじゃなく、だいぶ中国のイメージが身近になりましたね。大昔の中国ですけど。
中国人の大胆さ、極端さ、楽天的なところなんかもよく知れました。
読み始めたときは、話以外、解説なんかとてもじゃないけど読めないな、と思ってましたが、
読んだら解説も面白かったですね。
中国で道教の方が広まっている理由が、仏教は暗くて抹香臭いから合わなくて、
道教は、頑張ると仙人にしてくれるんで好きなんだそう。全部読んだ今では凄く判ります。(笑)
ちなみに、科挙の試験は一生続き、高齢になると色々融通もきくらしいですね。
ということで、この本でなくてもいいので、興味の湧いた方は、ぜひ『聊斎志異』読んで見てもらいたいです。
特に、奇想を求めてる、という人には。
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テーマ:読んだ本の感想等 - ジャンル:小説・文学
- 2021/11/05(金) 09:44:00|
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