
およそ、日頃から文学というものに縁遠いもので、川端康成ほどの文豪の作品の感想を書くなどおこがましいのだけれど―。
この「眠れる美女」は、筒井康隆の小説紹介エッセイ「漂流」のなかで一遍の「片腕」が紹介されていて、非常に興味深かったので読んでみたもの。
純文学なんていうと、意外と男女のくっ付いたり離れたり、やれ浮気だ何だって話が多かったり、逆に牧歌的すぎて退屈極まりなかったり・・・、と思ってしまいがちだけど、読んでみると全然違う場合も多い。
当時の先端なんだから、先鋭的な部分でも評価されていたわけで、表現やテーマがぶっ飛んでることもしばしば。
当の川端康成もしかりで、横光利一と並んで新感覚派だというのも今回知った次第。(お恥ずかしながら)
で、この「眠れる美女」は、川端のエロティシズム溢れる短編を三篇収録していて、一遍目が表題の「眠れる美女」。
年齢的にもう男ではなくなった老人が、何もしないことを条件に裸の美女と一夜添い寝出来るサービスを提供する宿屋の話。老人の少女に対する想像が意外とサスペンスタッチ。
次が「片腕」。これは、“女性が主人公に右腕を外して貸す”という、なんとも言いがたいような不条理、妄想のシュールレアリスムな一遍。筒井氏が紹介するのも納得。
最後が「散りぬるを」。自分が憎からず思っていた弟子姉妹を、何もしない間に、よく知りもしない男に2人とも惨殺されてしまう小説家の、事件に対する真相の好意的妄想と慙愧。
まったく目的のない偶発的な殺人のなかにみるエロティックな妄想の筆致も素晴らしいが、(そこが焦点ではないが)殺人を犯す山辺三郎の何者にもなれなかった焦燥感は現代の若者にも通ずるものがある。
と、非常に想像していたイメージとはかけ離れていた分、かなりに面白かった。
詳しい感想は、巻末の三島由紀夫(!)の解説が非常に優れて的を射ているのでそちらにお任せ。
今回読んでみて思ったのが、文体は非常に読みやすく、そして非常に上品。
さらに、同じ事がらを繰り返し描いている部分があっても、まったくしつこさを感じさせない。
さすがノーベル文学賞受賞。
なかでも、上品さは作品に格のようなものを与えていて凄く好印象で、読んでいて用も無いのに、文章とはかくありたい、と思わせるものがあった。(書く機会なんかないし、あってもマネなど出来ませんが)
筒井康隆の「漂流」には、安部公房を紹介したページはなくて、「何でか」と思ったが、先人として同種の作品をこのレベルで書かれていたのでは登場の機会もないわな。
ちなみに、ちょっと調べたところ、「眠れる美女」は何度か映像化されていて、近作ではドイツでも映画化されたとか。
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- 2011/06/04(土) 01:54:58|
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