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GEN'sログ(雑記)

イラスト&コミックのサイト「GENユニバース」の管理人GENのブログです。

巨獣の街

*注、非常に長文です。時間に余裕のあるときにどうぞ。
 
CSのネイチャー系チャンネル『ワイルド! ワイルド!! ハンティング』の隣に『チャンネル・トラウマン』がひっそりと出来たのが7年前。巨大生物駆除のドキュメントとして地味に人気ではあったが、主に田舎の山野に出没していた巨大生物が、都心にまで頻出するようになった昨今、番組は徐々にエンターテインメント化。派手な駆除活動にともない、若年層から火がつき、男性視聴者を中心に、今やネイチャー系きっての人気コンテンツとなっていた。

 国から特別に武力の行使を許可された民間巨生物駆除業者である“ギャッツ”は、『チャンネル・トラウマン』のいわばレギュラー出演者だ。少数精鋭のメンバーたちは、その活躍から茶の間に広く顔が知られる存在であり、派手な出で立ちは、子供たちからも絶大な人気だ。
 ギャッツが特別扱いを受ける理由は他にもある。そのひとつに、ギャッツが“トラウマン”を有している、ということが挙げられる。トラウマンとは巨大生物に対する最終兵器であり、絶対の信頼が置ける災害原因駆除の切り札。なおかつ、ギャッツのような専門駆除業者のメンバーにだけなる権限があるため、国も特別扱いせざるを得ないのだ。

 ギャッツメンバー、東田光次郎はトラウマンになれる権利を得た特別隊員だ。とはいいつつ、ギャッツ内では公然の秘密となっており、そのことについての優遇措置はなにもない。そればかりか、内心感謝はしているものの、表面的にはしょっちゅう作戦からドロップアウトするダメ隊員的な扱いを受ける有様なのであった。

「おーい、東田。お前、昨日の放送観たか?」
「なかなかよかったぞ、あの団地のおばちゃんとのやり取りな。あれが終盤の盛り上がりに繋がっとった」
「お前いつのまにあんなの撮っとったんだ、え~? ははっ」
 隊長、夕日奈勇三郎は、優秀だが努めて気さくな性格だ。失敗にも鷹揚な態度でアドバイスも欠かさない。
「だがな、フィニッシュの場面、あれはもうちょっとカメラの角度意識せんとイカンな。せっかくのロータの顔がビルで隠れとった。あれは査定でも減点対象になるかもしれんぞぉ」
と、いたずらっぽく夕日奈。
 フィニッシュについては、東田もよく理解はしている。間を置いて距離も程よくとることが番組から指示されているのだが、トラウマンになった思考能力4分の1の東田には、破壊衝動以外の予定調和な行動は、なかなかの高等技術なのだ。東田は、またかというような顔で、一息ついた。
「はぁ、わかってはいるんですが・・・、どうしても」
「んん、まぁいい。駆除成功の結果のほうが大切だからな」
東田は、こういう物事を引きずらない夕日奈の物言いが好きだった。しかし、結果より見てくれを気にする番組自体には、若干以上の意見があった。
「隊長、その放送を観ていて、いつも気になることがあるんですが・・・」
「んん?」
「ギャッツの制服のこともそうなんですが・・・、何でこんな派手なんですか?」「しかも、柄がユニオンジャックって、なんすかこれ? センス疑うんですが」
「それに、あの車両も。正直乗ってくの嫌なんですよ、何でデコトラですか? ヤンキーの改造車じゃないんだから・・・」
夕日奈は、東田をチラ見し、曖昧な笑みでなだめるように答える。
「ははっ、そういうのは、ツラヤバプロに言ってくれよ」
「んまぁ、マッドんときゃよかったのは私でもわかるが」
と、話を合わすように夕日奈。
奥にいた南野もニヤニヤ割って入って、
「そうですよ、ベース車がアフラのコズミック・スポーツまんまですからね。それに引き換え・・・」
「いやいや、われわれの“キャベッジレタス”だってベース車はポンダのパモスポンダだぞ」
自慢げな夕日奈に、東田は食い気味に「知りませんよそんな車!!」
「制服はトラウマ警備隊のがよかったですよねぇ」と宙を見てニヤつく南野。
「僕なんか好きすぎてレプリカ持ってますもん。ツラヤバプロも何考えてるんですかね。デザイナー変わたのかなぁ」

 ツラヤバプロとは、『チャンネル・トラウマン』を制作するツラヤバTVの運営会社だ。
今年で設立10周年。放送開始からは7年目になる。当初はニュースドキュメントに近い、引いたスタンスの放送形態だったが、放送開始翌年に専任駆除業者が民間から設置されると、内容は業者の内部にまで踏み込んだ、ドラマ性のある密着型のものになっていった。
専任駆除業者の設立とツラヤバとは直接関係ないのだが、トラウマン関連の仕組や亜空間室などの設置に関しては、何処かから怪しげなルートで持ち込んだとの噂がある。これに関しては、現駆除チームであるギャッツのメンバーでも詳しい内容を知るものは、ほとんどいない。ただ判っているのは、亜空間室がトラウマンたちの住む“常世(とこよ)の国”と繋がっているという事実だけだ。

「そういや、オープニングの唄もヘンですよね」
と思い出したように南野。
「冒頭の子供の合唱部分、あれ、“トラウマン、ナンバー・スリー”って言ってません? あれ間違ってますよね。番組的には『ロータ』で6番目なんだから“シックス”でしょ、ほんとは」
夕日奈は細かいな、とあきれたような顔つきで、
「子供の発音のせいじゃないのか、言っとるだろ“スゥイッ(クス)”って」

 視聴率が悪いと番組はリニューアルされる。
現在までにトラウマンは5人。1作目の『トラウマP』には、専任駆除業者もトラウマンもまだ居なかったが、翌年から、初代『トラウマン』、多彩な武器を持つ武闘派『トラウマンブンセ』、似ていたのでツラヤバプロも初代が戻ってきたものと勘違いした『戻ってきたトラウマン』、男女の混合体としてジェンダーの壁を軽く越えた、異彩を放つ問題作、『トラウマンスーエ』、そして現在、悪魔の角を持つ最強のトラウマンとうたわれる『トラウマンロータ』と続く。そのほか、主任トラウマンとは別に、ツラヤバからピンチのときに送られてくる“フィーゾ”などギャッツに所属しないトラウマンも数名確認されている。
また、トッカ隊から始まる駆除業者も、番組が変わるたびに刷新されているのだが、実は内部的には同じ組織だ。番組の人気が低迷してくると隊を解散させ、新たに社内からメンバーを選出、新体制へと移るのだ。そのとき同時にトラウマンもママに再産してもらうことになっている。

「あれ?今日は北さん遅いですね。遅刻ですか?」
壁の時計を見ながら南野が隊長に尋ねる。北が自分より遅く来ることなどまずないのだ。
「あぁ、あいつは腹の具合が悪いって休みだ」
「おおかた、また釣りに行って勝手に獲った岩牡蠣でも食べてあたったんだろ」
何をか言わんやの困り顔の隊長。
「へぇ~、ノロですかね」
「でも釣りに行ったのって、おとといでしょ、昨日は元気そうだったのになぁ」
東田も、昨日、昼飯でサンドイッチを交換したときには、腹のことは何も言ってなかったが、とぼんやり考えていた。

 突如けたたましく鳴り響くサイレン。続いて緊張は感じられるが淀みなく報告される状況。
「事件発生!!事件発生!!」
「都内に巨大なデメキンとミニチュアダックスが出現、暴れています!!」
浮き足立つ隊員たち。
が、夕日奈と東田は、内容を聞くと、お互い顔を見合わせ、どんよりと鼻の横にしわを寄せていた。
「いかにも・・・・・・」
「ペットって感じだな・・・・・・」
やや冷笑的にも見える慰め顔で夕日奈。
困惑で引きつり気味の東田は、「またかよ、勘弁してくれよ・・・」と意気消沈気味。
「せめて、イノシシか熊あたりの野生動物だったらなぁ・・・」
東田は、前々回の駆除対象である、巨大アライグマの頸を蹴り飛ばしてフィニッシュしたことで、大衆を戦慄させ、盛大に叩かれたばかりだったのだ。地上波のニュースや大手新聞各社、ネット関係も荒れに荒れ、東田のギャッツHP内の作業日誌ブログも、大炎上のうえ一時閉鎖を余儀なくされていた。虫や里山の地味な野生動物なら、批判は一部熱狂的な動物愛護原理主義者だけだが、カワイイ動物は鬼門なのだ。
「大衆は、アライグマがどれだけ凶暴か知らないんだ」
見た目の問題ではない。そもそも動物駆除にカワイイも可哀想もないだろう。ドメスティックな感情論でしか物事を見られない大衆に、東田は辟易としたものを感じていた。
「今日からコメント欄、復活させようと思ってたのになぁ」
何処にぶつけていいかわからないモヤモヤで、顔を梅干にしてジッとしている東田に、
「仕方ない。放って置いてもしょうがないんだ」と、強制的に割り切らせる隊長。
さらに、空気を切り替えるようにして、やや雑に、「はいっ!! 出動!!」

「新垣(にいがき)と南野はスカイセルリー、東田はキャロット1号、ホースラディッシュには西で行ってくれ。追って地上班も合流する。ルート等、細かい指示は、いつものとおりツラヤバのDから聞いてくれ」
まるで焦ることなく、慣れきった日常業務として隊員を割り振る隊長。
と、言い終らぬうち、最年少隊員の西が、ほかのメンバーを押しのけて隊長へ詰め寄る。
「あのっ、キャロット僕の番じゃ・・・」
「東田さんと交代って約束だったのに、えぇぇ~? 隊長ヒドぉい」
西は、東田に正式に決まる前のトラウマン最終候補者で、選考結果にいまだ納得がいっておらず、東田とは、公平に扱うよう、ことあるごとに突っ掛かってくるのであった。
「ツラヤバからのお達しでな、主人公は機種固定と言われとるんだ」
「だったら、ヒガさんがラディッシュでいいじゃないですか!!」
「あぁぁ~、お前は、ゴチャゴチャうるさい!!」
「ニンジンとワサビの何処に違いがあるんだ!!」西には、冷たい夕日奈であった。

 格納庫を足早に走り抜け、各機のコクピットに納まる隊員たち。
副隊長新垣が機敏に計器類をチェックし、次々にスイッチをオンにしていく。
「よ~し、もろもろオッケィ!!」
「ツラヤバ副調整室(サブ)からの通信入ります」
オペレーターの声が、ギャッツの過剰にデコラティブなヘルメットの中に響き渡ると、スカイセルリーのヘッドアップディスプレイの中心に画面が現れ、固太りの中年男が愛想よく、かつ猛烈な早口で話し出す。その様子は、一目で信用が置けないとわかるセールスマンといった風情だ。
「どうも!! ぃよろしくぅ、お願ぃぃします!!」
古賀シュウ激似というより、古賀シュウそのものみたいな男が、ショーパブ司会者口調で捲くし立てる。
「あぁのですね、デェメキンとミニチュアダックス出ちゃいましたんでぇ、さぁっそく退治していただきたいんですけどぉ」
「まぁずはですねぇ、大通りから誘導してもらってですねぇ、ここの大っきめの公園ありますよね。こぉこで対決しちゃいたいと思いますんでぇ、ぃよぉろしく、お願いしちゃあぁったりします!!」
感情の大して篭ってない、ツラヤバD(ディレクター)からのお願いに、新垣が応える。
「よおし、わかった!!」
負けず劣らず、パンパンのジャガイモ顔の新垣。実にどっしりと構えた憮然ともとれるまじめ顔で、落ち着き払った目は、鋭く細めた眼光のようにも見えるが、限りなくむくんでいるため、目が上下から圧迫され表情が作れないだけであった。
 古賀シュウ男の指示は続く。
「東田さぁん、お分かりと思いますが、今回、まぁたまたペットなんで、変身前に飼い主さんの説得シーンありまぁす!!」
キャロットの中で表情が固まっていく東田。
「演出、万田さんか・・・」
憂鬱は広がり、万田Dの激烈なトークが、次第に意味の判らないものになっていく。
「この人、お涙頂戴大好きだし、演出過剰なんだよなぁ・・・」
東田には、万田Dの演出プランが手に取るように判った。
「たぶん、飼い主にたっぷり演出して抵抗させるんだろうな・・・」
ウンザリであった。
「そぉれでは、もろもろよろしければ、スタンバイ、ぃよぉろしくおぉぉ願いしまぁす!!」
「はいっ、ワンダバスタート!!」
万田が音響係に指示すると、何故か、ラウンジ系のおしゃれなダバダバスキャットが格納庫に鳴り響く。
「発進までぇ~、5、4、3、(2、1、はいっキュー)」
万田の嫌ったらしいキメ顔指差しポーズが決まると、都内にそびえ立つギャッツビルの各面から、放射状にそれぞれの戦闘機が飛び出していく。

 東田のキャロットが現場に近づくと、ビルの谷間にドス黒いブヨブヨとした肉塊がブルブルと踊っていた。よく見ると塊の両端中腹に巨大な目玉が腐った柿の実のように飛び出しており、そのシルエットは、トータルすると、あきらかにデメキンだった。
さらに近づくと、ビルの陰から突如、西のラディッシュに向かってライトブラウンの毛に覆われた巨獣が、よだれに濡れた歯列を剥き出しにして飛び出してきた。当然、ミニチュアダックスであった。手足が著しく矮小し毛の生えた短めの蛇のようなダックスの噛み付き攻撃を間一髪で避けたラディッシュは、そのままデメキンの壁に突っ込み大破。西は自動的に射出され戦線離脱。
「にぃぃしっ!!」
「あいつ・・・、初攻撃手当てなんて、評価にはたいして影響ないって、いつも言ってるじゃないか」
東田はキャロットを上昇旋回させ、西の度派手なパラシュートを確認してホッとした。
ヘルメットに通信が響く。
「あのバカ・・・」
「西、そのまま地上班のキャベッジレタスと合流しろ。あぁ、それから戦闘終了後隊長室な。判ってるなっ」
それほど声を荒げてはいないが、呆れた上にあきらかに怒っている隊長だった。

 たいして移動速度が速くないデメキンとダックスは、セルリーの波状攻撃でもなかなか追い立てられず、作戦は難航していた。特にデメキンはほぼ歩けず、ブヨブヨのボディーは攻撃を吸収してしまい、最初に発見した場所からまったく動いていない気がした。
 地上では、ギャッツ地上班に混じって、ツラヤバ撮影班の機材車がそこここに点在しているのが見えた。ツラヤバはそれ以外にも要所要所のビルにカメラを配置しており、経験から出現ポイントを先読みしているとはいうが、常にギャッツより先行して現場に配置されている撮影クルーに、東田は「早すぎる」と感じていた。まるで、何処に動物たちが出現するのか、知っている気がしてならなかった。

 セルリーの南野が何気なくつぶやく。
「このデメキン、てっぺんに付いてパクパクいってる穴、口ですよね。結構、水から出されて苦しんでたりして」
「あんがい、放って置いてもそのまま死ぬんじゃないですかね」
「おいっ、それだ!!」
新垣が肉に埋もれて開かない目を見開いた。
「奴に水を掛けよう!!」
「水ぅ? 逆じゃないですか!?」「元気になっちゃいますよデメキン」
南野は、このジャガイモが何を言い出したのかよく判らなかった。
「元気になりゃ、少しは動くようになるだろうよ」
「公園に移動させる指示が出てるんだ、引き摺ってだって連れてくぞ」
新垣の埋没した瞳がギラつく。
「それじゃあ、被害が拡大しません? そんなにツラヤバの指示って大切なんスか?」
「まあな」
本部への指示と水の確保のことで頭がいっぱいな新垣は、もはや興味がないといった風に生返事。
南野は、「まっいいや」と首をすくめて地上を眺める。ビルの屋上からツラヤバのカメラがこちらを狙っているのが見えた。

 新垣は、スカイセルリーの汎用タンクに、地域の憩いの場となっている、鎮守の森のひょうたん池の水すべてを詰め、デメキン水掛作戦を開始した。
キャロットの東田も、なぜ急に救護し始めるのか疑問だったが、苛めているより助けているほうが世間に印象はいいだろうと、消火用バケットをキャロットに繋ぐと、小学校のプールの水を拝借した。

 上半身をグングン前後に振って首を突き出してくるダックスの攻撃を避けつつ、デメキンに水を撒き続けると、やがてデメキンの動きに違いが現れた。
初め滑っているだけにも見えたが、間違いなく尾ビレで地面をいざっていた。すると、その状況を見た新垣は、ギャッツの各機に、デメキン誘導のための攻撃を指示し始めた。
もう何がなんだか判らなくなっている東田のところへ、今度は隊長から「東田は地上へ」の命令が下る。
「えっっ!?」
「何でまた、今、戦闘佳境なんですけどぉ?」
「時間だ、時間」
「お前は、打ち合わせ忘れたのか?」
せかすように隊長。
「そういえば、飼い主説得シーンがあったんだ・・・・・・」
嫌なことを思い出し、遠い目になる東田。番組の決め事は、事態の進展状況ではなく、出演する一般人の都合もあって、ほぼ時間で決まっていた。
 仕方がないんで、東田は、キャロットを空いていたファミレスの駐車場に降ろした。
キャノピーを開くと、ギャッツ本部からの情報で、すでに先回りしていたツラヤバクルーが近づいてきてシーンの説明を始めた。
「光次郎隊員だぁ!!」
ファミレスから、子供が目を輝かせて飛び出してくる。
東田は、ツラヤバADを従えて歩きながら、適当に手を振ってあしらい、引きつった笑顔で追い払う。
「今からレタスで公園の見える住宅街へ入ってもらいます」
「その後、所定の位置でデメキンたちの様子を伺っているところへ、背後から飼い主さんたちインです」
「そこからは、飼い主さんの説得、アドリブということで」
ADの手馴れた説明は続く。
「レタスの運転、いつものドライバーさん来てるの? あれ、まともに運転できない上に前見えないんだよね」
「あっ、そちらは大丈夫です」
駐車場を出ると、植え込みの陰から常軌を逸した感性の、電飾付き立体看板のようなレタスが見えた。屋根の上では、謎のアンテナ付き球体が高速回転していた。
 ギャッツのメカ群は、それ以前とは違い、『スーエ』時代に居た兵器開発担当主任技師、梶井与一独自の梶井理論に基づく梶井物理学を応用して動いている。
東田は一度、レタスの謎の球体の中身を覗いてみたことがあった。しかし、中には小さな工作用モーターらしきものが一つしか入っていなかった。

「あぁ、ちなみにですけど、ダックスの飼い主さんは高級住宅街の専業主婦で、自然保護運動とかいろいろ活動されてる方のようです」
「デメキンのほうは・・・、子供です」
レタスのペラペラなドアを閉めながら、東田の細めた目がさらにくっつき、アイアンマンのようなお面顔になる。
「どっちもキッツゥ~」
特に問題は、プロ市民の主婦ではなく子供のほうであった。
たぶん間違いなく子供は泣くだろう。そしてすがり付いて懇願だ。子供の涙以上の正義はこの世にはないのだ。またギャッツとロータが矢面に立たされ、鬼だ悪魔だ無慈悲な保健所だとマスコミに叩かれるだろう。東田はよほど上手く立ち回らなければならなかった。

 現場に着くと、セルリーを南野に任せた新垣と、墜落現場から自力で走ってきた西が待ち構えており、東田を交えて所定の立ち位置に収まる。
急に薄紫のグラサンで攻めたファッションの新垣が、左側からあおりで狙うカメラを意識しつつ、おもむろにギャッツガンを撃ちながら言う。
「おいっ東田、ギャッツバズーカでダックスの目を狙え!!」
演出側が喜びそうな、刺激を含む命令をあえて選択すると、東田はADにバズーカを渡されていないことに気付く。
「うわぁ、持ってねーよ!!」
新垣の怒鳴り声を背に、慌ててレタスに走る東田は、その途中で駆け寄ってくる2人連れと交錯。
飼い主だった。子供は、もう泣いている上、制服を千切れんばかりに引っ張り体重を掛けてきた。
「ぼくのデメジロウを殺さないで!!」
「お願いだよぉ~!!」
ツラヤバのカメラマンが子供の顔ににじり寄る。
「えっ? ちょっ」
いきなりの本題に焦る東田。しかも「ジロウ」って・・・。
「何くん?」カメラマンの後ろに控えるADをチラ見し、小声で名を訊く東田。
“健太くんです”のスケッチブックを見せるAD。
東田は、レタスに向かう足を止めないよう注意しながら言う。
「健太くん、仕方ないんだ!!」
「東京の街が大変なことになってるんだ!!」
東田は、4、50メートルに膨れ上がったデメジロウを指差す。
「大変なことは、ギャッツが起こしてるんでしょ!!」
いきり立った、品があるんだかないんだかの40女が噛み付いてくる。
「私のマロンちゃんは殺させませんからねっ!!!!」
血走った目で、人でも殺しかねない圧を掛けてくる女に、東田はたじろいだ。
「そもそもギャッツのしていることは動物虐待でしょう?」
「大きかったら殺してもいいんですか!? 動物は友達です。私たちの家族なんですよ!!」
「そんなの、あなたたちが許しても世間が許しませんよぉ!!」
そのために人が死んでる、と言い掛けた東田であったが、人より動物が虐待されることのほうを問題視していることは明らかだったので止めて、レタスからバズーカを漁り出した。

「おいっ!! ひ~が~し~だ~っ!! ダックスが来るぞぉ~!!」
「おい!! なにやっとんじゃぁ!!!!」
ひとりで泡を吹いている新垣がギャッツガンを乱射している。

「っぼくの、ぼくのデメジロォ~・・・・・・」
健太は、目一杯、眉を眉間で吊り上げ、顔全体を八の字にして東田に迫る。
「光次郎さん!!」
「大切に飼ってたんだよぉ、ちゃんと世話もしてたんだよぉ」
「なんで殺すの、ギャッツはなんで殺しちゃうの」
「デメジロウのジロウは光次郎さんの次郎なんだよ・・・・・・」
「それなのに・・・・・・」
東田は、健太の渾身の演技、いや演技ではないが、名子役のような全身全霊の訴えに心を揺さぶられた。
「こんな子供をここまで泣かせて哀願させて・・・・・・、俺は何をやってるんだ・・・・・・」
「俺の名前なんて付けてくれるなよ・・・・・・」
東田は一気に動揺し、バズーカを持ったまま立ち尽くしてしまった。

「副隊長ぉ~、東田のやつ、まだですかぁ~」
セルリーの南野が泣きついてくる。
「もうそろそろ限界です!! 早くロータに出てもらわないとミサイル無くなりますよぉ~!!」
「おう、ちょっと待て!! 東田のやつ手間取ってるみたいだっ!!」
迫るダックスに応戦しながら新垣ががなる。
「もう、予備まで撃っちゃいますよ。先月も使用弾数の制限越えちゃって、残弾数の報告書誤魔化してんですからぁ、知りませんよ」
「わあった,わあった、今見てくるから燃料限界まで踏ん張っててくれ!!」
新垣は、強引に通信を切ると、ダックスを気にしながら後退し始めた。

「あんたぁ~!! そのデッカいのでどうするつもりなのよぉ~!!!!」
健太を突き飛ばして、東田の胸ぐらに掴み掛かる女。
あまりの迫力に恐怖を感じた東田は「いやっぁ、何でもないですぅ」と、一歩引いてバズーカを背中に隠してしまった。
すかさずADが“説得”と書いたスケッチブックを前後させ指示を猛アピールする。
ヒーローらしさを求められるギャッツの中において、なお最高のヒーローたらんとした行動が求められる、トラウマン化契約特別隊員である東田は、カメラの前でも毅然とした態度がベストとされるのだ。
ADのカンペを横目に見ながら、東田は必死に体裁を取り繕う。
「と、東京が・・・・・・、とにかく東京が大変なんだ!!」
「み、見りゃわかるだろぉ!!」
と、早く済ませたくて語気が荒くなる東田。
「街を守るのは、あんたたちの仕事でしょぉ!! あたしのマロンちゃんに、手ぇ出したら承知しないわよっ!!」「街に被害ったって、そんなのトラウマンだって一緒じゃない!! マロンちゃんだけ悪者にして責任被せてぇー!!」
重いボディーブローにぐうの音も出なかった。まったくそのとおりだった。当たっているだけに、ギャッツ隊員としては、言われたくない類のことだった。
いや、ギャッツはあくまで駆除業者であり首都防衛は業務外なのだし、駆除による二次災害は、江戸時代の破壊消化同様、必要で仕方のない損害として処理され認められていると思っていた。しかし、実際には、受ける側の被害に必要も不必要もなく、家が壊れて住めなくなる現実には変わりがない。また、被害を起こす原因も、動物だろうがギャッツやトラウマンだろうが、受ける気持ちの差ぐらいにしか違いはないのだということに、東田は今まで気付いていなかった。

「光次郎さんはデメジロウを殺すんだね」
「そうなんだ、殺すんだ!!」
「もう、光次郎さんなんか嫌いだ!!」
「ギャッツもロータも、みんなデメジロウにやっつけられちゃえばいいんだっ!!」
悲しみが限界を超え、怒りに転化された健太は、憤怒の表情で東田を睨みつけた。
「なんてこと言うんだ・・・・・・」
東田は顔の筋肉が弛緩していくのを感じた。同時に音がするほど血の気が下がり、目の奥がチカチカしてきた。たぶん鏡を見たら顔は黄緑色のはずだ。

東田は大腸過敏だった。極度の感情の変化によるストレスから、今や急激な“さしこみ”が下腹部を襲っていた。そう思うと気分まで悪く感じてきて、もはや、この場にいるのが耐え難くなっていた。

東田は逃げた。
ADが叫ぶ。
「ストップ、ストォ~ップ!!」
「カメラ止めてぇ~!!」

 雑居ビルとカフェとの隙間の壁に付いた、凹んだドアに嵌まり込むように隠れて、制服のズボンをズリ上げている東田。どうやら何処かのトイレに駆け込んだ様子で、間一髪セーフの顔で、喘ぎながら一息ついている。
「おいっ!! 東田っ!!」
「見つけたぞ!! お前、任務放っぽり出して何してんだっ!!!!」
「今すぐ戻れ!! みんなロータを待ってんだっ!!!!」
走り回ったせいで、顔が鎌倉彫の盆のような色になった新垣が捲くし立てる。逆光の中に立つ汗をかいた新垣は、異様な顔のデカさも手伝って、さながら仁王の顔して茹で上がったアンパンマンといったところ。
「は、腹が痛くて・・・・・」
「それに・・・・・・」
「どうでもいいから早く来い!!!!」
新垣が東田の腕を抜けるほど引っ張る。ビルの隙間から引っ張り出された東田は、歩道につんのめって飛び出した。その顔は、短期間で憔悴しており、額に脂汗が滲んでいる。東田は、新垣の腕を振り払った。

「おいっどうした!?」
タイムシートどおりに進行しない状況を心配して、隊長が新垣に通信を入れる。
「なんだ、トラブルか?」
「東田は何してんだ!! ツラヤバも状況説明しろってせっついとるぞ!!」
そこへ、俗な万田Dの声が割って入る。
「新垣さん、どぉしましたか? 東田さん居ましたか?」
「あぁ、見つけましたよ万田さん。大丈夫、任せてください。今すぐ行かせますんで、えぇ」
「今からなら、まぁだ間に合いますんで、大至急、ぃよろしく、お願いしまぁす!!」

「行きませんよ」
青ざめた顔で東田が睨んでいる。
「もう、嫌なんですよ・・・・・・」
「人のペット殺すの嫌なんです!!」
「今の通信、万田さんですよね・・・、ツラヤバの指示でも絶対行きませんから」
「なぁにっ!!」
思ってもみない言葉が東田から飛び出し、凝然とする新垣。
「バカヤロッ!! ふざけたこと抜かしやがって!!!!」
「お前、それ本気で言ってるのか!? お前が行かなくて誰が東京の街守るんだ!!」
「お前しか居ないだろ!! トラウマンはお前だけなんだぞ!!!!」
時間がないので、とりあえず怒鳴り散らす新垣。
「そのトラウマンになってやることといったら、結局、動物を殺して、街に損害を与えるだけじゃないですか・・・・・・」
「しかも、マスコミに叩かれた上、ブログは大炎上・・・・・・」
「疲れました。僕には荷が重すぎたんです・・・・・・」
だんだん真顔になって、淡々と話す東田の様子に本気を感じ取る新垣。
「見ろ。ほら、見てみろ!!」
「街が燃えてるんだ!! デメキンが暴れてるんだ!!」
「それがお前の本音か知らんがな、今、南野は燃料が尽きかけた状態で戦ってるんだぞ!! なんとも思わんのか!!」
東田は、まだ気分が優れないのか、腹や胸のあたりをさすりながら、上目遣いで新垣を見て言う。
「それ、番組のためでしょ、ツラヤバの指示のためですよね」
「副隊長、ツラヤバ寄りですもんね・・・・・・」
意地悪そうな、およそヒーローらしくない顔で伺う東田に、新垣は顔を中心に集め、かろうじて爆発を抑える。
「お前の気持ちも、ツラヤバの指示も関係ない、やれ!!」
「今、街が大変なんだ!!」
新垣が諭すように言う。
「どうして、我々が駆除しないといけないか、もう一度考えてみろ」
「今、この時間に巨大化、凶暴化した動物にビルが押し潰されているんだ。誰かが駆除して助けなきゃ、死ぬ人が出るかもしれんのだ。それは、お前も十分に判っているはずだ。そうだな」
「そして、その駆除を、ひいては、災害の阻止を一手に引き受けているのがギャッツなんだ」
何を判りきったことを、という目で見つめ返す東田。片方にだけ力の入った口角に、新垣に対する懐疑の念が見て取れる。
「そのためには、どうしても動物を殺さなきゃならん・・・・・・。だが、我々だって、好き好んで動物を殺してるんじゃない!!」
「サーカスでゾウがお客を踏み殺したらどうなる。動物園からトラが逃げ出したら、民家にヒグマが出て、住人が襲われたらどういう結末が待ってる」
「みな、殺される」
「人間に脅威を与える害獣は、みな処分される運命にあるんだ」
「それだけじゃない。不要になったペット、増えすぎた野良犬、野良猫、在来種を脅かす帰化動物・・・・・・」
「これも、必要とあらば最終的には殺処分だ・・・・・・」
「みんな、人間の快適な生活のため、適正な生態系のために必要なことだ。そして、その陰には、処分を担当するものも確実に居るということだ。我々は、猟友会と同じだ。ギャッツは、保健所の殺処分担当者となんら変わりはないんだ。人から嫌われようと、なんと言われ蔑まれようと、それが仕事なんだ。それも、非常に大切なな」
新垣は、東田の目に徐々に正義の光が戻ってくる気がし、さらに言葉を続けた。
「そのなかでも、トラウマンの役割はひときわ大きい」
「直接対峙し、直接手を下すトラウマンは象徴化されている。厳しい視線はロータに自然と集まる」
「そんな、誰もやりたがらないような大役を仰せつかっているのが、お前なんじゃないか」
「ロータはいわば、公儀介錯人だ、山田朝右衛門なんだ!! もともと、蔑まれるのも仕事のうちと、覚悟の特別隊員承諾じゃあなかったのか!?」
新垣は、考えられうる限りのギャッツとトラウマンの必要性を説いて聞かせた。

東田は震えていた。一瞬、風邪かな? と思ったが、すぐに、しでかしたことのデカさと、敵の目の前で逃げてしまった、自分への後悔から打ち震える感情ゆえだと気付いた。
「ぁ・・・、あぁっ!! 新垣さん、デメキンは!? ダックスは何処まで来てんですか!!」
急にあたふたし始める東田。通りの向こうのビル郡に見え隠れする巨獣の影を見つけるため、首を必死に動かす。
満足げな新垣は、表裏の判らないジャガイモのような、したり顔で言う。
「東田、今なら間に合う。行って来い!!」
「新垣さん、俺・・・、新垣さんにツラヤバのためとか酷いこと言っちゃって・・・・・・」
「ホントすいません!!!!」
必死に、二つ折りになる東田。
「いいから行け!!」
「みんなが待ってる。存分に暴れて来い!!」
たやすく感動した東田の目は早くも潤んでいた。
「はいっ!!!!」
東田は、踵を返すと、通りを突っ切って一直線に走っていった。避難中の車が急ブレーキで怒鳴ったが、走っているのが東田だと判るとあっけにとられて、口をあけたままで傍観した。

何処までも走って行く東田を見送る新垣は、グラサンをかけ直し、タバコに火をつける。ゆっくりと煙を吐き、一息つくと口の端に笑いを溜めて言う。
「みんなに嫌われても必要な大切な仕事か・・・・・・」
「ふっ、それをエンターテインメントにして見せてんだから、実際、罪深いな」
「しかも、動物が倒されるのをカタルシスたっぷりに演出してみせる・・・、さしずめ公開処刑の実況中継だ」
笑いをかみ殺して、嬉しそうに遠くを見つめる新垣に個人用の通信が入る。
「どうですかぁ? 新垣さん。東田さんは説得できましたかぁ?」
軽薄そのものの声の主は、ツラヤバ万田Dであった。
「あぁ、東田のやつ、やっと行きましたよ」
「大丈夫。 ははっ、たっぷり吹き込んでおいたんで、やつ、燃えてますよ」
「さぁすが新垣さん!! 頼れる兄貴は違いますねぇ~!! 今度、ばっちり奢らせてもらいますんでぇ、ぃよろしくお願いしまぁす!!」
新垣は、相手より先に通信を切ると、口を鼻に寄せ満足げだった。万田のしゃべり口調は、生理的な拒否反応もあったが、褒められて悪い気はしないのであった。

商業施設建設予定のまま、ほったらかしになっている草っ原を東田が走り抜けると、目前のビルの向こうにダックスの影が迫っていた。ダックスが狂ったように首を突き出すたび、かすめたビルの窓ガラスが、光るシャワーとなって地上に降り注いだ。
「つっ!! 犬の野郎!! 好き放題暴れやがって!!!!」
東田が、迷いのない怒りをぶちまけていると、脇の草むらから、不意にツラヤバクルーが現れ合流、ダックスを睨む東田の顔をさっそく狙い始める。東田は、当然のことのようにそれらを無視してギャッツガンを抜き、ダックスに狙いを付ける。そのとき、ツラヤバADがなにやら通信を受け取ると、突如、カメラはあらぬ方向に向き直り、何かを待つ体勢となる。と、いきなり、デメジロウの飼い主である、健太が砂利道を走って来るのが見えた。幻のように目の前を走って行く健太に、東田は動転。走ってきた方向を一瞬確認すると、ツラヤバの機材車からこちらを見る万田Dが見え、すべてを理解する。
「やめてくれぇ!!!! デメジロー!! もう、暴れないでくれぇ!!!!」
どんどん動物に近付いて行く健太に、東田は思わず絶叫する。
「あぶないっ!! 健太くん!!!!」
降り注ぐ瓦礫から健太を守るべく、飛び付いて覆い被さる東田。瓦礫を払い立ち上がると、健太は目立った怪我はないがグッタリしている。意を決したように東田が左二の腕に手を伸ばし、ミステリーサークルみたいな形のバッジを掴もうとするが、ない。「あれ?」っという顔で身体を探る東田に、サッと予備を手渡すAD。東田に聞こえるギリギリの声音で「テイク・ツーで~す」
東田、もう一度立ち直して、編集点のために一息ついてから、おもむろにバッジを取り叫ぶ。
 ちなみに、この、変身グッズであるミステリーサークル・バッジは、本来なくとも変身可能で、番組スポンサーであるおもちゃメーカー、パントイが玩具として売るために発案したものにすぎない。

「ロォォ~~タァァ~~!!!!」
東田が叫び、バッジを天に突き出しながら前方に走ると、東田の斜め上方に水面状に波打つ黒いモヤモヤが現れ、東田が入れるほどに広がると、うっすらと、Aの字の横棒が2本になって左右に突き出したようなマークが朱色に発光し、突き出した右腕、頭、身体、と順に下がりながら、東田をすっかり飲み込んでいく。すべて、叫んでから2、3秒の出来事で、そのまま東田は消えた。
 宙に現れた黒い水面は、ギャッツビルの地下にある、亜空間室内の常世の国と繋がっており、東田は常世の国を経由し、ロータになるエネルギーをコアに充填させると、今度はロータの姿となって現世(うつしよ)に現れるのである。これが、いわゆる変身のプロセスである。

東田が消えてから数秒後、ダックスとデメキンが暴れる都心の上空に巨大な水面が現れる。水面が波打ち、何もないのに大きく円錐状に水柱が立ち、それが思い切り引っ込むと、同心円状の波紋が次々に中心から沸き立ち王冠を作る。ついで、またしても2本横線のAの字が、今度は波紋をハミ出すほど巨大に発光し、その中心、暗い奥底から赤黒い巨大な手が見えたかと思うと、「ホォォォ~~~ォォ!!!!」という、釜鳴りのような不気味な声が響き渡り、頭に巨大な角の生えた巨人が逆さまに降ってくる。
 そのまま、なだれ込むようにデメキンに頭からダイブすると、立ち上がって天を仰ぎ咆哮するロータ。その、街を揺るがす雄叫びは、人語を解さないプリミティブな神性を帯びており、人々に恐怖と同時に畏怖の念を植え付けた。

 ギャッツ本部で夕日奈は、思わず深く座りなおした。なかなか時間通りにロータが現れないので戦々恐々としていたのだ。
「やっと出たか・・・・・・、東田のやつ、ヤキモキさせやがって」
「ギャッツは、何だかんだいって、決定打を欠く程度にしか戦力を持たされてはおらんからな」
「ロータが出てこなかったら、まったく話にならんよ、ははっ、なっ森川くん」
ご機嫌になった夕日奈は、オペレーターをしていた森川いづみにちょっかいを出す。
「それにしても、思い出すなぁ、ロータが初めて再産されたときのことをな・・・・・・」
モニター内で咆えるロータを見つめながら、遠い目をする夕日奈。

「あれは、まだ薄ら寒い春先時分のことだった。前番組『トラウマンスーエ』の、軍隊的組織内での不条理で徹底した新人いじめテーマが受け入れられなかったか視聴率が下がり、番組改編も決定的となっていた時期。ツラヤバでも、作家陣が次番組の内容を早急に詰めに入ると、次期トラウマン候補も絞られ、東田光次郎に白羽の矢が立つこととなった。次番組『トラウマンロータ』が本格始動すると、いよいよ東田は、ギャッツ地下の亜空間室で、ママによる再産の秘儀を受けることになった。ギャッツ内でも最大のタブーである再産の秘儀は、受ける者以外立ち入ることは許されず、ギャッツメンバーであろうと、近寄れるのは亜空間室の前までだった。そして、数時間後、ロータは再び生まれた・・・・・・」
「亜空間室が開き、WホライズンのAの字、通称“鳥居”の名を持つ“常世ゲート”の向こうに居たロータを初めて見たときには驚いた。それは、顔がキャッチャーミットのようにえぐれた、巨大な角を持つ、無貌の悪鬼だった。全身が赤黒く、黒光りする角を頭部から左右に怒らせた筋肉質の巨体は、見るからに西洋の悪魔そのものだった・・・・・・」
「我々は仰天した。再産されるトラウマンについては、毎回どんな姿のものが現れるか判らないのだが、さすがに、この魔神を世間に晒すわけにはいかないということは、誰もがすぐに判断が付いた」
「我々は、ゲートの向こうにしどけなく横たわるトラウマのママに懇願した。『ママ!! ママ!! こんなものは現世に出せない!! 街の人々が恐怖でパニックに陥ってしまうよ!! ママ、どうにかならないか!! ママ!!』 ―――ママは、眷属である下級種族で出来た不定形なクッションの上で、およそ人間ぽく見えないが悩ましげな、その10メートル程の姿態をよじってこちらを見た。『せ、せめて・・・、せめて顔を隠せないか? マスクでいい。そうだ、身体の色はブンセに似ているから、ブンセ似のマスクを作ってくれ!!』 ママは無表情ともとれる顔でこちらを見据え、無言で答えたように見えた。その後、一旦、扉が閉められ、しばらくののち、再び開くと、今、我々が見慣れたロータの姿がそこにあった・・・・・・」
 ちなみに、ブンセは2体目のトラウマンで、今までで唯一人間に化ける能力を持つが、番組リニューアル時に不文律を破り、常世には戻らず、人間体であるドン・モロコシの姿のまま現世に逃げてしまい、今も見つかっていない。
ブンセ時、ドン時とも常に、「ウイウイ」もしくは、「ワシワシ」と何かをしゃべっているので、発見する時の参考にしていただきたい。見つけた方は、ぜひご一報を。

「あれには参ったなぁ・・・・・・、まさか、世間もマスコミも、ロータの顔がお面で、その下にはえぐれた化け物の顔があるとは知らんだろうなぁ。はははっ、お面が取れたら一大事だ」
自分以外でも少数の人しか知らぬ重要機密を噛み締め、優越感にも似た顔でほくそ笑む夕日奈であった。のだが、ロータ以前のトラウマンも全員、その顔はお面だった、という噂もあり、夕日奈の知りえる秘密も、実際にはここまでであった。

 ロータはダックスに顔だけ向けると、矢庭に腕を伸ばし、首を掴むと持ち上げて頭から地面にめり込ませた。ダックスの悲痛な叫びがビル街にこだまする。続いて逃げようともがいているデメキンを、飛び付いてからのチョップ&膝蹴りで転がし、馬乗りになって、左右の拳を急ピッチで叩き込む。防御する腕のないデメキンは短いヒレをバタつかせ、穴という穴からドス黒い液体を撒き散らす。少年の「ぎゃぁぁぁ~~!!」という、尾を引く悲鳴が聞こえた気がしたロータだったが、目の前の肉の塊を停止させることに夢中になっていて差ほど気にならなかった。
そこへ、背後からダックスが飛び込んで首筋に噛み付き攻撃を加えた。勢い余って、ロータは首にダックスをぶら下げたまま、前方にもんどりうった。ダックスは、執拗に噛み付き、ロータの肩口には血が滲む。肩越しに両手を伸ばし、ダックスを背負い投げの要領で地面に叩き付けるロータ。「ホウッ!!」と雄叫びを上げるとジャンプし、そのままダックスの腹にフットスタンプ。ゴキッと物凄い破壊音がして、ありえない長さの舌を吐き出すダックス。ロータが体制を整え、様子を伺う一瞬の隙に、今度は、デメキンが必死の抵抗で黒い液体をロータの顔面に吐き掛ける。ベットリと顔面に血糊が張り付き、いっそう凄味のある姿となるロータ。顔を擦ってもがいていると、ダックスが這いより脚に噛み付く。そのまま尻餅を付いたロータは、手近の水を探して這い回るが、神社の池も、学校のプールもギャッツが汲んでしまっていてすでになかった。ロータは消火栓を地面ごとブチ抜いて吹き上がる水で顔を洗ったが、50メートルのロータからすると、公園の水のみ場の水で洗っているようなもので、なかなか思うように洗えなかった。
それでも、顔がサッパリしたロータは気分一新、急に活力に溢れたような動きとなり、ダックスをデメキンのそばに蹴り飛ばすと、おもむろに両腕を頭上にかざした。指を緩く開くと光が宿り、「ホウッ!!」と叫ぶと同時に、街中に「千六本スライサー!!」という、たっぷりリバーブの効いた文言が鳴り響く。ついで、手を左右から、それぞれ袈裟懸けに振り下ろすと、指先から発された光が帯となり、10本の光の剣が前方のダックスたちに飛び出していく。リモコン式のブーメランのごとく左右に分かれて目標を目指す光の剣。仲良く並んで立っているダックスとデメキンたちに達すると、両側面からかち合わないように食い込み、そのまま2匹を音もなく水平にスライスした。
 それぞれ11の断片に輪切りにされた2匹は、あまりの切り口の鋭さから、まだ完全にくっ付いた状態でよろけ始め、右に左に数歩ずつ移動すると、各階に深い庇の付いたミルフィーユ状の外観のビルに、肩を組んだ酔っ払いのように、ピッタリくっ付いたまま横から突っ込んでしまった。すると、ちょうど張り出したビルの庇と、スライスされた幅が一致していたため、当たった衝撃で身体の断片がズレてしまう。ダルマ落としの要領で、一段置きに一体分ずつ綺麗にズレてしまったデメキンとダックスは、一つ置きに身体がなくなったダックスの残りと、反対側にハミ出したデメキンの断片に挟まれ、10段重ねのメガ盛りハンバーガーのような、ボーダー柄の新生物となっていた。そして、余った部品が脱落すると、デメキンの粘着質の体液と、ダックスの体毛が絡んだか、はたまた気まぐれな神様のイタズラか、あっという間に癒着が進むと、ここにめでたく、のちの人気動物である、“デメダックス”が完成する。

 おかしな物が出来上がってしまい、若干狼狽するロータ。しかも、何ゆえか以前の2体よりも活発で、アクティブになったように見えるデメダックスは、身体を激しく震わせると、ロータに向かって突進してきた。ビックリしたロータは避けきれずに正面から受け止めてしまうと、そのまま馬乗りにされ、何処が顔だかわからない物凄い形相に凄まれ、二つの口から得体の知れない液を垂らされた。再びきったない顔になっってしまったロータは、それだけで憤慨し、閉じられなくなっているダックスの口と口の間の、よく判らないデメキンの部分に、烈火のパンチをめり込ませた。すると、何故かデメダックスの頭頂部から「ぴゅー」と何かが噴出し、そのまま後ろに仰け反って転がっていった。
立ち上がり、距離をとったロータは、何やらひとしきりヴォーギングのような上半身の動きを繰り返すと、颯爽と右手を頭上高くに掲げる。緩く握った拳のあたりがボウッと光り始めると同時に、ビル街には「ロータ・スピ・・・」と声が響く。が、ロータの手に現れたのが、金太郎の“まさかり”のようなものだったことが判明するやいなや、「斧っ!!」と被せるようにもう一度音声が響き渡る。

 実は、素顔のロータには口らしきものがない。なので、当然声も出せない。この、街に響き渡る技名は、事前にツラヤバによって録音された東田の声なのだ。以前は、番組の編集時に声を足していたのだが、今は、担当Dが、コンソールのスイッチに割り当てられた声を、現場でリアルタイムにスイッチングしてアテレコしている。今回は、ものが出る前にスイッチを押してしまい失敗したのだった。
 ちなみに、ごっこ遊びのときに人気の「ホウッ!!」というロータの声も、声ではない。横から見ると、カタカナの“イ”のようになっているロータの頭部の、首から通じる部分の穴から、エネルギーが充満したときに漏れる音なのだ。言ってみれば、笛吹ケトルの笛の音と同じようなものである。もっとも、こちらは、湯が沸いたお知らせではなく、殺す準備が出来たことを知らせる地獄の呼び声だが。

 巨大なただの斧にしか見えないものを手にしたロータは、柄を両手で掴むと、ダッシュから軽くジャンプし無造作に振り下ろした。ドズッと重い音がし、デメダックスの左前頭部に斧の大半が沈むと、その場所に深い亀裂が出来上がった。そのまま、デメダックスの身体に足を掛けると、畑でも耕すように斧の上下運動を繰り返すロータ。そのびに「ぴぇ~!!」と笛の鳴るような音が街に響き渡り、見ていないものにまで恐怖を植えつけた。
ひとしきり耕すと、斧を放り投げ、飽きたかのように離れてから振り向くと、いきなり前屈みになって、ムンクの叫びのような、ふざけたポーズをデメダックスに向かってするロータ。すかさずツラヤバの設置した市街スピーカーからは、「呪い!!」の文言。ロータの頭からモヤモヤと見慣れぬ古代文字らしきタイポグラフィが湧き出すと、ゆらゆらとデメダックスにまとわり付き、デメダックスは何となく紫がかる。
縦に刻み目が入って、ズタボロの雑巾のようになってしまったデメダックスは、呪われたせいか、それでも夢遊病のように立ち上がり、底知れぬ生命力を見せるが、すでに余裕のロータは、足取りも軽やかに定位置に付く。大の字ポーズから両拳を応援団のように腰に溜めると、常世から人にも見えるほどエネルギーが身体に集中し始め、ロータの姿がホログラフィックに揺らめくと、「ストニゥ~ム、光~線!!」と、ちょっと勿体つけた、一段とリバーブが深い録音音声。ロータが胸の前で指を組んでお祈りのポーズをとると、「困っ・ちゃっ・た・な」みたいに、その手首から上を左右に数度振り、自分から見て左に傾いたときに固定、かわいこぶってお願いする痛い女子高生みたいな格好になると、その前腕部から虹色の光の束が放出され、デメダックスにこれでもかと浴びせかけられる。直後、デメダックスは赤く膨れ上がると、内部から破裂するように粉々に四散。それこそ木っ端微塵の肉塊になって、ビル街のありとあらゆる場所へ飛び散っていって姿を消す。ちなみに、ロータのストニウム光線のポーズは、小文字の“r”を模したもので、これもまたツラヤバの発案である。
 
 その後、ロータが常世へ消えようと身構えたとき、異変が起こる。
今まで、溢れる自信で雄々しく立っていたロータが、急に腹のあたりを押さえ始め、屈んだと思ったら身体を伸ばし、また身体を折りたたむと、今度は盛大に「オボボボボボッ」と、ゲロを吐いた。
30メートルを越す落差の大瀑布は、西に傾いた日に照らされ、黄金に輝いていた。
実は、東田の変身前の体調の異変は、精神的なものなどではなく、北隊員にうつされたノロなのであった。トラウマンの身体を借りることで、しばらくは小康状態を保っていたが、ノロの爆発的な増殖力は恐ろしく、トラウマンになった身体まで蝕み、とうとう、この短時間で嘔吐にまで漕ぎ着けたのであった。それを考えると、下から出なかったのは、不幸中の幸いと言わねばなるまい。

 いろいろと番組構成にない、不規則行動が目立ったが、こうして、今回の巨大生物駆除は完了した。
放送時のサブタイトルは、「ロータ、必殺のだるま落とし!!」 ―ボーダー生物、デメダックス登場― になったが、このせいで放送後、ツラヤバプロは訴えられた。ダックスの飼い主の主婦が噛み付いたのだ。
「うちのマロンちゃんが、デメキンより名前の順番が下ってどういうこと!? そもそも、ダックスじゃなくてマロンって、ちゃんとした名前があるんですから、そっち使ってちょうだい!!」
人気になった巨大生物は、ソフビ人形や、カードになる場合があり、持ち主がハッキリしているときには、僅かだが使用量も払われるのだ。要は、デメキンと一緒くたにされたことが我慢ならなかったらしい。
 ちなみに、放送時はカットされたが、公衆の面前で盛大に嘔吐した東田は、1週間の謹慎の上減俸。ギャッツ隊員としての評価もだだ下がりであった。
 その後、街は、デメダックスの四散した内臓と、ロータの吐瀉物のせいで、胃液の混じった糞便のような激臭が1ヶ月以上も続き、ギャッツ清掃班だけでは、洗浄作業が追い付かず、他の民間業者にも頼んだせいで莫大な赤字となった。



END。



<特別付録:主題歌mp3>
クリックで再生

トラウマンロータの歌 
作詞・作曲・編曲 GEN

ロータ トラウマンナンバー スリッ

    トラウマのパパいない
(でも)トラウマのママはいる
ウウウ そしてロータもここにいる

上を見ろ 下を見ろ
ざまあみろ!!

かなたから せまりくる
(でっかい)どうぶつよ!!

ギャッツがしろはたあげたとき
悪魔のすがた ララ ひたかくし

ロータがうでもぐ!!
ロータがくびはねる!!

ロータ!! ロータ!! ロータ!!
トラウマンロータ!!





<刊行予定>


「宇宙人が来た!!」

 とうとう、ギャッツに宇宙人と対峙するときがやってきた。
来る、宇宙人襲来を見据え、政府から宇宙人対策室の役人と称する男が送り込まれる。しかし、何かがおかしい。
他番組のスパイではないかと、いぶかしがる隊員たち。男のする怪しげな行動。その衝撃の正体とは――。
 
 待望の『トラウマンシリーズ』第2弾!! シリーズ最大のタブー、トラウマのママの再産の秘儀も今、明らかに。

―― 予定は未定。今のところ書く予定はなし。



―トラウマンシリーズ・スピンオフ―
「粟田礼太郎のフィールドワーク 其の1」

 ブンセが発見された!!
ある大学の考古学教授になっていたブンセは、名を粟田礼太郎と変え、怪しげなフィールドワークを続けていた。
失踪した教え子が残した手記。判明する粟田の結界破り。蘇る常世の邪神を前に、図らずもヒーローと化すブンセ。
ブンセの求める、封印された、トラウマの翁(グランパ)とは・・・・・・。 そして、山深い古代遺跡に響き渡る「ウイウイ」の声。
 千の顔を持つブンセのカプセル眷属が今、解き放たれる!!

 トラウマンシリーズ待望のスピンオフ伝奇アクション!! 乞うご期待!! (と言いたいところだが) 

―― 予定は未定。今のところ書く予定はなし。



よかったら、こちらの記事も一緒にどうぞ。 『巨獣の街』について
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  1. 2014/04/03(木) 07:14:43|
  2. イラスト&コミック
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:0
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