
『虎よ、虎よ! 』で有名な、アルフレッド・ベスターの既刊の長編の中で一番入手しづらいと思われる1冊、『コンピュータ・コネクション』を読みました。
と、いっても、入手しづらかったのは一昔前までで、今はネットでレア本の入手は簡単なので、手ごろな出物が出たのを見計らって買ったわけですが。(かつて、神保町のレアSF本を扱う店で手に取ったことがあるだけに感慨深いですよ。 そのときより全然安かったし)
で、感想ですが、かなり内容に触れてしまうと思うので、ベスター作品でこれだけ読んでなくて、尚且つ事前に内容を知りたくない、という方は、『ゴーレム 100 』のような設定の地球で、『分解された男』のような感覚の話が進む、ベスター版『水滸伝』か『X-MEN』のような感じと思ってみてください。 内容の過剰な盛り込み、ぶっ飛び加減、健在です。 ちなみに、裏表紙の内容説明はかなり詳しいので読まない方が得策。
と、いうわけで、あらためて感想ですが、いやぁ、読み慣れるまでが大変だった。
毎度のことながら、独自の世界観の作り込みが度が過ぎてて、特に今回は、出てくる言葉がオリジナルなんで、理解してても、忘れちゃうと大変。 だんだん戻るのもしんどくなって、しまいには、こんなだったっけなで読み通しちゃいました。
なんたって、スパングリッシュとかいう、ギャル語みたいな学生のスラングと極端な短縮形だけで出来てるような言葉に世界中の英語が変わっちゃってて、文章読める奴がほとんどいないぐらい知能が後退(というか、コンピュータが取って代わってるんでしょう)しちゃってる世界で、それじゃ翻訳しても、ド田舎のなまりのキツイおっさんがカタコトの日本語話してるみたいになっちゃうんで、XX(20世紀の意味)っていう、古い時代の言葉を主人公たちのグループは話す超知識人という設定になってるぐらい。(その他、言葉遊びの類も無数)
この、主人公たちが自在に古い時代の言葉を話せるという理由もガッチリ設定に盛り込まれていて、実は主人公グループは、人類の中でも類稀な、死のショックを受けつつ生き返ったものだけに顕れる、細胞の永遠の活性化を得た不死の人間たち(モレキュラーマン<分子人間>/モールマン)。 不死になった時代から年を取らず永々生き続けるので、20世紀以前にモールマン化した仲間は、当然XXを自然に話せるというわけ。
しかも、モールマン化は、極少数とはいえ有史以前から起こっていて、数百年から、千年、2千年は当たり前、なんとネアンデルタール人まで出てくるというところがベスターらしさというか、いかに作品をぶっ飛ばせるかのいい例。
グループの人数も多く出てくる出てくる。 みんな、自分に関係した昔の偉人の名をあだ名にしていて、ネモ船長は居るわ、エジソンは居るわ、キリストは居るわで大騒ぎ。 中には本物の偉人も居るようだけど、これ、全部本物ということにしてた方が面白かったような気がするんだけどどうなのか。 イエスとか本人だったら爆笑モンなんだけど。
この人数の多さも、読み慣れる大変さのひとつで、たまにしか出てこないキャラは誰だったか判んなくなる。 まぁ、判らなくても面白いですが。
その、大量のキャラクターの中でも面白いのが、後半出てくる連中。 特にユダヤ人のヒレルは面白い。
具体的なストーリーは、主人公ギグ(モールマンの特徴である癲癇持ちの人物を死の恐怖に追い込み、モールマンを増やそうとして、たびたび殺人を犯してしまう男。 通称、グラン・ギニョル<恐怖劇>、略してギグ)が、天才コンピュータ技師、ゲス博士をモールマン化することから起こる、全人類を巻き込むコンピュータの反乱を描いたもの。
ゲスは人類の移住計画として宇宙進出を考えており、そのため飛行士を冷凍して宇宙に送る実験をしている。 が、戻ってきた3人の冷凍飛行士(クライオノート)は、何故か両性具有の胎児と化しており、地上に戻ると順調に成長し始める。
一方、地球全土をカバーするほどのネットワークを有するエクストロ・コンピュータは、これを人類の新時代の幕開けと信じ、現人類と両性具有人との入れ替えを計画する。
ギグのゲス、モールマン化計画は成功するが、その過程でエクストロ・コンピュータを使ったことで、奇跡的な脳細胞とエクストロのチップとの融合が起きてしまい(この時代、脳にチップを埋め込むということは普通にしているが、ゲスはしていない。 にもかかわらず、脳内の信号とエクストロのデータ信号が共有されてしまう)、ゲスはコンピュータの人間交換台、生きる端末と化してエクストロの計画を実行してしまう。
その後は、エクストロ、ゲスチームと、モールマンとの熾烈な戦いが続き、やがて真の裏切り者が炙りだされる。
その、ラスボスともいえる藩王のキャラクターが凄い。 ハッキリ言って感心した。 惜しむらくは、藩王登場から1、2章費やして、場所も変えつつ大激戦を繰り広げたらと、てつもない作品になったんじゃなかろうかと。 藩王登場で諸星大二郎の『孔子暗黒伝』的なトンでもな方向性もあったんじゃないかと思う。
そのほか、クライオたちの造型、ヒックやヒレル、フィーなどのキャラクターも面白いが、やはり藩王が決定打といえる。
とにかく、カバー折り返しのJ・G・バラードの言葉じゃないけど、アイデアが吹きこぼれてる。
詰め込み具合が凄すぎて、最初のタイムむにゃむにゃと、後半の空飛ぶスライムは要らなかったんじゃなかろうかと思うほど。
ぜひ、ベスターファン以外にも挑戦して欲しいですね。 表紙とタイトルから受ける印象とはだいぶ違った世界が待ってます。
で、最後にちょっと気になったことを。
『タイタンの妖女』のときにも、『ウォッチメン』の元ネタだろう、と書きましたが、これもそうなんじゃないの、という気が・・・・・・。
ヒーロー的異能集団の中に裏切り者が出る、という話の構成がまず似てるし、ノーネームっていうバカ扱いされてるモールマンが急に鋭いこと言うのもロールシャッハをイメージさせるし、なんといってもモールマンの中にオジマンディアスという名前の奴がいるんだよね。 そんな気するでしょう。
あと、ベスター作品には、不思議と音楽の要素が出てくる(『ゴーレム』のスクリャービンとか、『分解』のテンソルとか、今回も楽譜出てきます)のは何故なのか、と思ったら、作曲と指揮を学んでる人だったんですね。 納得。
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テーマ:読んだ本の感想等 - ジャンル:小説・文学
- 2015/08/27(木) 06:43:06|
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