
手塚の問題作、『奇子』を読んでみました。(ネタバレありです)
『奇子』は、かなり小さいころから気にはなっていて、
立ち読みでパラパラぐらいは読んだことあるんですが、当時は、興味が湧かず。
それから、今まででも見つけると読もうかと思うんですが、何故かのびのびに。
まあ、子供のころ読まなくて正解だったですが。(笑)
で、読んだ感想は・・・・・・、思ってたのと全然違う!!
田舎の因習が発端の悲劇、という部分は、その通りでしたが、意外に凄いポリティカルサスペンス!!
まさか、下山事件モチーフとは。しかも、時間の経過も激しく、どんどん時代が進む大河ドラマ。
読んでて手塚の筆力に圧倒されましたよ。
たぶん、手塚の作家としての本質的な部分とは違うジャンルではあるんでしょうが、
実に、松本清張ら社会派サスペンス作家の作風を自分のものにしていて、巧みだなと。
具体的には、閉じ込められる奇子が可哀想で可哀想で、見てられなかった。
前半は、仁朗に感情移入しているんで伺朗が疎ましく、
でも、伺朗だけが奇子にとって助けになるかと思いきや中盤から鬼畜の所業。
伺朗の転向ぶりには正直愕然とした。天外家の血が出過ぎ。
ジジイのゲスっぷり散々見てなおの愕然だからね。罪がデカいね。
後半の仁朗がヤクザになる展開は、急に日活アクションものみたいになっちゃってちょっと安っぽいかな。
悪徳企業家ぐらいにしとけばよかったのに。
これ、途中で終わってるみたいなんで(ちゃんと纏まってはいます)、なんなんですが、
やっぱり、『ジレッタ』のときも感じましたが、アイデアが豊富過ぎなんでしょうね。
たぶん、奇子の話と、GHQの話は分けた方がスッキリ読めたかなぁと。
天外家にとって仁朗がしでかしてる話がデカすぎると思うんですよね。
まあ、でも、ラストは、ちゃんと奇子の運命に引っ掛けた感じになってて上手いなとは思います。
ラスト書替えたのも、そっちの方がいいかなぁ、とは思うけど、ハナオぐらい生きててもよかったかな。
それにしても、人物の描き分けが絵的にも描写的にも凄いよな。
手塚の凄いところは、絵が記号的に見えて実はもの凄くバリエーションが多いところだと思う。
今のマンガやアニメで、天外志子みたいなデザインのキャラ、そうとう理由がないと出てこないと思う。
そういった類のキャラがさりげなく、しかも、ウジャウジャ描けちゃうのがやっぱり凄いなと。
あと、殺人シーンや暴力シーンが息が詰まる。この辺は、いやらしいぐらい上手い。
裏手塚の本領発揮ってところでしょうか。
衝撃的な内容を多分に含むんで、興味のある方は、覚悟してトライを。
ちなみに、この手塚文庫全集版は、『奇子』以外に、『鉄の旋律』、『白い幻影』、『レボリューション』を収録。
『鉄の旋律』は読んだ気になってたんですが、全然記憶になくて、こんな超能力の話だったんですね。
『白い幻影』は読んだ記憶ありですが、ラストを覚えてなくてこんなだったかと。
収録の短編の中では『レボリューション』が一番好きですね。
ある夫婦の奥さんが突然別人格になってしまい、それを解明する話なんですが、面白いです。
手塚の長男、眞氏は、短編にこそ名作が多いのでそれを映像化して欲しいと言ってましたが、その通り。
3作とも、設定をいじれば、いくらでも発展性のある現代にも通ずる佳作だと思います。
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テーマ:感想 - ジャンル:アニメ・コミック
- 2018/10/20(土) 07:33:40|
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