
“今のアニメーターの待遇の悪さは手塚のせいではない”、
という主張をTwitterで偶然見て、
しかも、それを知らしめるために本を書いたというので、
そうなのか、主犯が判ったのかと驚き即日購入。
いろいろ読む本が溜まってたんで、読み終わったのが今になりましたが、読了。
辞書かと思うほど非常に分厚い本ですが、実に丁寧に大量の資料を読み込み、
数字的な正確さと客観性は特筆もの、
が非常に読みやすく、スリリングなほどドンドンページが進む。
いわば、大著です。非常に労作です。
教科書といっても言い過ぎではないですね。
序盤からグングン引き付けられ、手塚がプロになったあたりからはもう夢中。
で、この大量の資料を読み比べ歴史を炙り出すスタイル、
断定的な言い切り方・・・・・・、
ん? なにか既視感があるな・・・・・・、
待てよ、もしや?
いやいやいや違うだろ、
えっ、そうなのか・・・・・・、
調べた結果、
ムカムカしてもう二度と読みたくないと思ってた
『松田聖子と中森明菜 [増補版] 一九八〇年代の革命 (朝日文庫)』(←その時の感想です)
と同じ作者の本でした。(泣)
いや、読めばわかると思うんですが、この聖子と明菜の本トンデモないんですよ。
もちろん、数字的なデータはすこぶる正確で内容的にもよく調べてあって面白んですけどね。
(既存の出版物からの引用のみで独自取材はしない主義らしいですが)
そのデータの捉え方が若干恣意的で自分の主張に合うように解釈してるフシがある。
ようするに、聖子が嫌いで明菜が好きというのがハッキリは書かないけれど滲み出てる。
それを踏まえて今回の本を読むと、もう明らかに手塚(虫プロ系)が好きで東映系が嫌い。
そのことに関しては、あとがきで本人が書いちゃってますが、
はっきり言って、公平ではないですよ。
たぶん、手塚の功績の復権がしたかったんでしょう。
で、冒頭のアニメ界の待遇の悪さの原因とされた手塚の汚名は払拭できたのか。
いや、読んだ感じでは全然ですよ。
著者は数字的な事実を捻じ曲げるようなことはしませんから、
手塚が安い制作費で請け負ったのは本当。
でも、手塚自身が補填することで虫プロの給料は高かった。
しかも、キャラクタービジネスと作品の海外輸出でかなりの黒字に。
ということで、虫プロでの待遇は悪くなかったんだから手塚のせいではないという論調。
ほかが低賃金でヒィヒィ言ってたのは、
手塚という金のなる木がいなかったことと、海外に売る等の先見の明がなかったからだ、という展開。
でもそれだと、「今の仕事が嫌なら社長になれ」とか言ってるホリエモンの主張と変わらないのでは?
海外向きじゃない作品はやるなとでも?
そもそも、強引に始めてはみたものの全く人が足りず、なし崩しに広げていった結果、
スタッフの奪い合いで東映のアニメーターまで含めて他社と掛け持ちでアルバイトしないと作品が仕上がらない。
なので、非正規で歩合制が標準になっていく。
主犯は全員とも言えますが、原因を作ったのはやっぱり手塚です。
だって、本来、穴埋めしなくても作れるように貰うのが製作費でしょ。
(ちなみに、虫プロは、ずさんさとハンコの管理の悪さ、手塚というコンテンツが古びることで倒産します)
それと、読んでて気になったのが、日本のテレビアニメを作ったのが手塚、と言い切っちゃってるところ。
だって、実は違うってわざわざ自分で紹介してるのに。
イノベーターだから凄いっていうなら、先に企画が始まってたエイケンの方が凄いんじゃ。
細かいところを気にする割には、自分の都合で無視するのはどうなのか。
そのいい訳なのか、あとがきで革命には持続が大事だとか書いてましたが。
あと、大塚さんは、わりと理路整然と手塚批判をしてたはずなんですが、軽くあしらい過ぎでは。
それも、あとがきで言い訳してますが、24時間テレビの手塚アニメには触れてるのに、
『火の鳥2772』をあえて外してるのは、いただけない。
あれ見て大塚さん、手塚は、リミテッドアニメだけじゃなくて、フルアニメも判ってなくて、
結局、最後までアニメを理解してなかった。ってはっきり断罪してるから、扱いたくなかったんだろうけど。
そもそも、虫プロのスタート時から、他社もそうですが、ずっと元東映の人達がスタッフの何処かに居て、
なんだかんだで結局、東映頼みの側面もあるなと。
あと、単純な本の感想では、
スタジオゼロの全貌や、西崎義展の暗躍の仕方、
虫プロ関係の借金がチャラになったいきさつなんかが面白かったですね。
資料がよく纏められてるということに関しては間違いないし。
国産テレビアニメと漫画家の関係中心ではあるけれど、こんなに纏まって読める本もないんで、
手塚好きな人は是非。
ちなみに、私は、手塚も好きだし、東映長編の頃のアニメーターの人たちも好きです。
念のため。(笑)
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テーマ:最近読んだ本 - ジャンル:本・雑誌
- 2022/04/29(金) 07:51:35|
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